脳内科医Jのブログ

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【仕事】脳梗塞で肺水腫を発症する

 神経原性肺水腫をきたした左内頚動脈閉塞症の1例(臨床神経 2021, 61, 29-32)という論文が興味深かったので、整理してみました。

 

 超急性期脳梗塞で、血栓回収療法を行った症例の報告です。

 全失語、左共同偏視、右片麻痺で、NIHSS=19点。MRAで左ICA、左PCA閉塞、DWIで左MCAとPCA領域に高信号あり。NIHSS=19点。来院時、BGAでは低酸素血症、CXRで両側肺野にbutterfly shadowあり。

 combined techniqueで回収手技を行って、TICI 3。術中から呼吸状態悪化し、CXRでは両側肺野の陰影が悪化、挿管・人工呼吸管理となった。心機能問題なし、感染症もなく、神経原性肺水腫と診断。経時的に呼吸状態は改善したが、神経学的な改善はえられず、mRS=5で転院。

 神経原性肺水腫の発症機序について考察されていました。

 よくみられる原因は、TBI、SAH、epilepsy、meningitis、ICHなど。脳梗塞に起因するケースは稀だが、延髄梗塞など、延髄障害での発症は報告ある。

 解剖学的には、延髄腹概則、嘔吐中枢、孤束核A1/A5、内束網様体、迷走神経背側運動核が交感神経の過剰興奮を惹起する。

 生理的には、ICP亢進によってこれらの部位が刺激されること、また肺動脈圧亢進や肺血管透過性亢進をみたらすとの報告ある。

 また、中枢自律神経網(central autonomic network;CAN)という概念があり、中枢の自律神経中枢を、視床下部、前部帯状回、島皮質、偏桃体、脳幹網様体などのネットワークとして捉えるようになっている。これらの部位の刺激によって、交感神経が刺激され、神経原性肺水腫を惹起するのではないかという考察。

 島皮質に関しては、右が交感神経中枢、左が副交感神経中枢、という論文もある。また、島皮質障害では、不整脈、血圧変動、心筋症、睡眠障害BNPやカテコラミンや血統の上昇をきたすことがあるとのこと。