脳内科医Jのブログ

実りある人生のために

【仕事】医療従事者の経済リテラシー

 医師は、「医学」の実践者か?「医療」の実践者か?

 

 一般的に、社会的地位が高いだとか、憧れの職業だとか、頭がいい人しかなれないだとか、収入が高いだとか、いわれる職業として、日本では、医師・歯科医師、弁護士、公認会計士、税理士などがその代表として挙げられることが多い。

 これらの中で唯一毛色の違うのが医師・歯科医師。理科系学部で、経済・金融の知識を得る機会が圧倒的に少ない、もしくは全くないと言っても過言ではない環境で生き続けることができるのが、医師・歯科医師のみ。

 患者さんやスタッフからは「先生!」と敬われ、いい車に乗り、いい時計を身に付け、高級店での飲食も日常。その一方で内情は、収入の割に、現預金は少なく(そういうデータがある)、投資で増やす術を知らないから、働くしかない。単位労働あたりの報酬も高いので、お金が減ればバイトでいとも簡単に稼げてしまう。意外と、自転車操業なのに、そうは見えない、「裸の王様」的な一面を持っている医師も多いかもしれない。

 他職種では、NBA選手、NPB選手など、超高額な年俸を稼ぐアスリートでは、多額のお金を管理するだけの知識や、お金の使い方を知らないがために、破産する人も多いと聞く。NPBでは新人選手に年金などのお金の教育もしているという。こういう一流アスリートも同じで、金融リテラシーを得る機会のないまま社会に出たという意味では、医師・歯科医師と同じであろう。

 

 私もそうであるが、医師の悪口を言いたいわけではない。医師も仕事上、経済的な観念は持っておくべきという話。

 医療を経済的な視点で見た場合、

 ・医療はサービス業であり、治療効果、患者満足度に加えて、医療施設の収益性を考える必要があること。

 ・中長期的に、国民医療費の過度な増加に至らないようなサービス提供を考える必要があること。

 といったバランスが重要である一方、医療は病や生命を扱う業種であり、そこには金銭には代えがたい大切なものを含む。といったジレンマがあると思う。エビデンスに基づいた医療(evidence-based medicine;EBM)は重要であり、必要十分な内容の診療を行うことは大切。が、それを忠実に実践しようとすると、過度の診療になりがち。特に専門外の主訴や疾患に対しては、検査が過度になりやすい。かといって、診断の精度が上がるわけではない。こういう観点からみて、専門家が不在の環境では、テレメディシンは有用かもしれないと思う。

 大学病院、公的病院では、先端医療や高度の検査・治療を提供する責務があること、臨床研究的な意味合いも含む診療も必要であることから、経済性よりも医学的価値に重きが置かれることがあるのは必然。しかし、市中の民間病院では、民間企業と同じく、経済性を無視するわけにはいかない。もちろん、医療サービスの提供という崇高な使命があることは前提であるが、収益性を無視するわけにはいかない。ここでこそ、必要十分、あるいは必要な医療をいかに考えて実践するかという面が重要である。すなわち、コスト面を意識した医療(cost-based medicine)である。

 以上のようなことを考えると、医師は、「医学」の知識を持った「医療」の実践者であるべきと思う。決して、「医学」の実践者ではなく。医学生・研修医の時にこそ、経済・金融リテラシーや医療経済の知識を得る機会を提供することが肝要と考える。また、日々の臨床カンファレンスにも、医療事務職が介入し、医療経済・病院経営を考慮した診療内容になるような仕組みを構築することが必要かもしれない。そのためには、医師も経験だけに基づいた治療方針では説得力がないので、常に最新情報を得、知識をアップデートしておき、客観的な知見に基づいた治療方針を検討しなければならない。そのための論文購読、資料集め、学会参加等の費用は病院負担とし、医師が知識を得やすい環境を整備していただく。これで、妥当な医療費で、なおかつ洗練された診療内容になり、医療レベルもアップするのではないかと思う。現状では、「先生がそういうなら、、」と、経営側・事務職が泣く場面も多いので、やはりそれは病院スタッフ同士、対等な立場で病院運営をすべきと思うし、それが診療内の向上にもつながるのではないか。全国の病院でそういうことが普通になれば、国民医療費の抑制にもつながると確信する。